スクレーパーを作ったきっかけ
私はもともと鉋を扱う仕事をしてきたわけではないので、鉋の調整に必要な道具を知りませんでした。
新潟県在住者を中心とした集まりである木遊会の練習会で、山田さんが鉋の下端を調整するスクレーパーを持っていて、私も欲しいなと思ったのがきっかけです。
山田さんが持っているT字で平らな刃物でした。
スクレーパー「鯨」の外観
スクレーパーの刃幅は寸八の鉋台より少し広い95mm付近で、鉋のように刃先は裏上げして一直線に裏が出ています。
(まだ裏上げが下手なので波打っている場合があります。)
刃先から首にかけて鯨のしっぽのように少しずつ幅が狭くなっています。
刃先から首の部分はわずかに手前に歪曲しています。
持ち手の部分はスクレーパーを鉋台に垂直に置いた際に20度ぐらい傾いていますが、末端の部分にかけてさらに歪曲して起き上がっています。
持ち手の部分は直接握るとさびやすいと思ったので、パラコード(アウトドアでよく使われる紐。もともとはパラシュート用の紐)を巻きました。
首には鯨と彫金されています。
形状の理由
力の掛けやすさ
このスクレーパーを使うには、台にスクレーパーを押し付け(上図、緑矢印)ながら、手前に動かさ(上図、紫矢印)なくてはいけません。
2つの力を合成すると赤色の矢印の方向になります。
ちょうど持ち手と垂直方向になります。
持ち手を自然に握れば赤矢印と上腕の軸が一致します。
そのため、不自然に手首を傾けることなく、持ち手を自然に握りしめた形のまま腕を引くことで、無理なく赤矢印方向に力を掛けることができます。
回転しにくさ
もしスクレーパーが平面であれば、スクレーパーの中心軸と持ち手が同じ軸になるため、握力だけで回転を止める必要があります。そのため、使用する際に左右に回転するようにぶれてしまいます。
上の写真のように回転軸(赤1点鎖線)と持ち手が回転軸から離れるほど、てこの原理のような働きにより、回転がしにくくなります。
大工さんの話でいうと、槍鉋を持つときも左右の手を離して持ちますよね。
また力学的な話をすると慣性モーメントと呼ばれる数値があり、質量×距離の2乗であらわされます。
これは回転軸から遠いところに持ち手があれば回転しにくいということを意味しています。
力強さ
現代の多くの鑿はもう少し肩が張っていますが、このスクレーパーはなで肩のようになっています。
スクレーパーは鑿とは力を掛ける方向が90度ちがい、刃を垂直に立てて前後に動かします。
その際は肩のほうに肉を広げるより、厚みを増やす方が強度が高くなります。
鯨のしっぽは上下に動かして水を押しだしますが、水を力強く、効率良く押し出すためにあの形状になったのかと思います。
スクレーパーの形状を考える際に、今の形状を思いつましたが、その際にそういえば鯨のしっぽもこんな形状だったと思い“鯨”と名付けました。
デメリット:研ぐのが大変
このスクレーパーは90mmちょいの幅があります。
寸八の鉋の刃幅は約63mmなので、1.5倍ぐらいです。
ここまで広いとまっすぐ研ぐのは大変です。
また持ち手がついているので、研ぐときには邪魔です。
私は卓球のペンホルダーのような持ち方をして横向きに研いでいます。
この持ち方だと砥石に小指が当たってしまうので、下の画像のように砥石の右側だけでしか研ぐことができません。
また砥石も平面になっていないと痛い目をみるので、そこが重要です。
↓私が痛い目を見たときの記事